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2025.09.24
日本新聞
袴田巖さん、名誉棄損で国を提訴
4639号1面記事
袴田巖さん、名誉棄損で国を提訴
「控訴しない」としながら「犯人視」
する畝本検事総長談話。えん罪で58年も殺人犯として死刑囚にされ
た袴田さんに誠意ある謝罪を求む
1966年の静岡県一家4人殺害事件で、昨年9月26日、静岡地裁は袴田巖さんに再審無罪判決を言い渡した。しかも検察側が「証拠」として事件後1年以上経ってから、味噌樽から「発見」した5点の衣類や「自白」を検察の「ねつ造」と断じた。事実、味噌樽に1年以上浸かっていた「5点の衣類」の血痕が鮮やかに残っていたり、検察が返り血だと言う衣類が、下着の方が上着より血痕が多いこと、ズボンが袴田さんには小さくて履けないなど、不自然なことが多かった。まさに「ねつ造」としか言えない。
検察はこれに対して控訴しなかったため、袴田さんの無罪は確定した。ところが畝本検事総長は「控訴しない」としながら「被告人が犯人であることの立証は可能」「判決が『5点の衣類』をねつ造と断じたことに強い不満」などと、実に矛盾した内容の談話であった。そして58年という長い間、死刑囚の汚名を着せられた袴田さんへの謝罪の言葉は一言もない。
9月11日、袴田巖さんは「談話で犯人視され名誉が傷つけられた」として、国に計550万円の損害賠償を求めて静岡地裁に提訴した。訴状では「談話が名誉回復や社会復帰を著しく阻害した」「原告の名誉を棄損する違法なものであり、速やかに取り消すべきだ」と主張。小川英世弁護団長は「袴田さんの名誉を傷つけ、無罪判決を出した裁判所を侮辱する行為だ」と指摘した。
人生を奪ったことに何の反省もない検察側、再審法改正急務
58年と言ったら人生そのものと言っていい年月である。その年月を、えん罪を着せられ、死刑囚として生きらされた袴田さん。いつ死刑執行の日を迎えるかわからない、耐えられない恐怖の中で袴田さんは拘禁症を患ってしまった。姉のひで子さんが面会に行っても「姉などいない」と面会を拒否した日々もあった。その中、ひで子さんは巖さんを支え続けた。そして迎えた再審無罪判決。それでも尚「犯人であることの立証は可能」と犯人視をやめない検事総長談話。提訴は当然である。
ひで子さんは「巌が無罪になってそれで終わりじゃない。再審法改正を求める」と言っている。実にき然とした生き方である。
冤罪の温床となっているのは「人質司法」にある、それを変えなければならない、と言われている。日本の刑事司法制度は、逮捕された被疑者を自白するまで釈放しないのが当たり前に行われている。警察の留置場で身柄を拘束され、留置場が「代用監獄」化している。密室の留置場に入れられ、自白を強要される。人権無視も甚だしい。また「司法取引」も合法化されている。自分の罪を軽減してもらうために、「目撃証人」になるのだ。「福井女子中学生殺人事件」で犯人にされ再審無罪となった前川さんの場合、「目撃証人」が現れ、その供述が次々変わっているのに、検察がその指摘を無視して、とにかく前川さんを犯人にでっち上げたのである。
えん罪に苦しむ人がこれ以上増えないためには、代用監獄をやめさせ、取り調べ可視化、録音録画の徹底、そして再審法改正を急がなければならない。証拠開示の規定を明らかにし、すみやかに証拠開示が行われるようにする、検察官の不服申し立ての禁止、再審請求審の期日の指定を明らかにするなどで、いたずらに再審を引き延ばす現在の状況を変える再審法改正を早急に決定しなければならない。
多くのえん罪事件がある。狭山事件の石川さんは、えん罪を晴らす前に、3月11日、無念のうちに亡くなられた。えん罪でありながら死刑が執行された人もいる。
えん罪で人生を奪われることのないように、再審法の早期改正を求める。検察は袴田さんに人生を奪ったことを謝罪すべきである。 (沢)
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2025.09.17
日本新聞
東電柏崎刈羽原発再稼働を阻止しよう
4638号1面記事
東電柏崎刈羽原発再稼働を阻止しよう
財政支援対象自治体を拡大するなど再稼働に向けて策動めぐらす国と東電。汚染水の海洋投棄、汚染土の全国へのばらまき等問題山積
8月28日、自民党の新潟県連は国に要望書を出した。中味は柏崎刈羽原発再稼働を巡り、経産相に原発周辺自治体への財政支援の拡充を求めるもので、花角・新潟県知事も要望しているものだ。翌8月29日、政府は「原子力発電施設等立地地域の振興に関する特別措置法」(原発立地特措法)の対象地域を、原発から半径10キロ圏内から30キロ圏内に広げることを決めた。随分迅速な対応だ。
9月3日、花角知事は東電柏崎刈羽原発の再稼働の是非を10月末以降に判断すると明言した。花角知事の支持基盤は自民党で、参院選の自民大敗の情勢(花角知事が応援した自民候補も落選)から、再稼働について慎重な姿勢を示している。支援対象自治体拡大で再稼働容認の声が強まれば、知事も再稼働容認を表明し、“地元の理解を得た”と再稼働が進められる可能性もある。
財政支援があろうと、原発の危険がなくなるわけではない。福島第一原発事故を引き起こし、今も収束の目途も示せない東電が、事故炉と同じ沸騰水型の柏崎刈羽原発を動かすことは実に危険である。福島県大熊町、双葉町からの避難者815人は今も仮設住宅に暮らしている。県は仮設住宅の無償提供を来年3月で原則打ち切る。果たして国や東電はそうした被害者に支援するのか。住居や生活を保障するのか。これまでの経過を見ると全く望み薄である。再稼働を実現するためには財政支援を強調するが、事故の被害者は、その後の対応の悪さで二次被害、三次被害にあっている。何としても再稼働は阻止しなければならない。
汚染水、汚染土など解決できない問題だらけ
8月25日、東電は福島第一原発にたまっている汚染水の海洋投棄14回目を終えた。今回、トリチウムは過去最高値の1リットル当たり61ベクレルを検出した。14回目は8月7日から25日までで、トリチウム総量は約3兆ベクレルだという。莫大な量だ。その他にも放射性物質が多数含まれている。
先日も福島の漁業関係者の悲痛な声が報じられていた。必死に原発事故から立ち上がろうとしている時に、汚染水の海洋投棄。必死の努力が踏みにじられている。
福島第一原発敷地内のタンク約128万トンの約7割が放射性物質の濃度が基準値より高いことがわかっており、再び浄化処理するという。そもそも汚染水の海洋投棄自体が大問題である。
そして汚染土の問題。政府は最終処分する汚染土を極力減らすために、全国に汚染土をばらまこうとしている。1キロ当たり8000ベクレル以下の汚染土を公共事業に使うというのである。事故前は放射性セシウムで1キロ当たり100ベクレル以下の基準だった。事故が起きたら一挙に8000ベクレルまで、何故引き上げられるのか、はなはだ疑問だ。
原発事故の被害も汚染も過少に宣伝して、政府は「原発の最大限活用」を強行しようとしている。
7月30日には泊原発3号機を新基準「適合」とした。パブリックコメント(意見公募)には地震や津波、周辺火山の噴火対応など不安の声が多数寄せられていたのに、その声は生かされなかった。支笏カルデラと洞爺カルデラは火砕流の被害が想定される。実に危険である。
中国電力は8月29日、山口県上関町に「核燃料中間貯蔵立地は可能」と伝達した。関西電力との共同運用を想定し、関電が再稼働している原発の使用済み核燃料を運び込める施設としたいのだ。
安全な原発などない。政府は「原発の最大限活用」ではなく、原発からの撤退へと方針を変えるべきである。 (沢)
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2025.09.03
日本新聞
長生炭鉱から遺骨、政府は責任をもって調査を
4637号1面記事
長生炭鉱から遺骨、政府は責任をもって調査を
「遺骨の場所と深度がわからない」と調査を拒んできた国。遺骨発見の今、遺骨調査を具体的に進め、遺
族に謝罪することを早急に求める
山口県宇部市の長生炭鉱で、水没事故の犠牲者の遺骨調査で、8月26日、潜水したダイバーが頭蓋骨を発見した。前日の25日にも細長い骨を3本発見している。地元の市民団体「長生炭鉱の水非常の歴史を刻む会」がクラウドファンディングで資金を募り、日本の代表的な水中探検家の伊佐治佳孝さんと韓国のダイバー・金京洙さん、金秀恩さんの協力を得て、昨年10月から遺骨調査を行ってきた。そして遂に遺骨を発見したのである。海中にはたくさんの障害物があり、伊佐治さんは調査中にケガをしている。その後を引き継いで、韓国ダイバーが遺骨発見にこぎつけた。海中にはまだたくさんの遺骨が確認されたという。
長生炭鉱水没事故は国策による人災、国の責任は明らか
1942年2月3日、沖合1.1キロで海底坑道が崩れ、183人(136人が朝鮮半島出身者、日本人が47人)が犠牲となった。この事故は予測できないものではなく、起こるべくして引き起こされたものだ。136人のうち4人は10代、30歳以下が80人と若い人たちであった。
宇部炭田にはいくつかの炭鉱があり、長生炭鉱は3番目に大きかった。全体で年間100万トンの石炭を出していて、長生炭鉱は15万トンを出していた。石炭がなければ戦争できないと、国策として供出量も決められていた。
長生炭鉱は一番先に電気化され、トロッコが24時間動いていた。掘った石炭をトロッコが電動で運び、すぐ戻ってくる。そのため、休む暇もなく、労働は過酷さを極めた。労働力も足りなくなり、朝鮮半島から強制連行される人数も増やされ、過酷な労働を強いられた。
この人たちが入れられた「合宿所」(会社側の呼び名)は実際は収容所で、高さ3.6メートルの壁で囲まれ、出口は1カ所、ピストルを持った憲兵がいたという証言がある。通路の壁にはハングルで「おなかがすいた」「母さん会いたいよ」と書かれていたという。
地下40メートル以上なければならないという鉱山法も守られず、長生炭鉱は地下37メートルしかなかった。そこから更に上へ上へと掘らされたのである。坑道は常に水漏れしており、いつ事故が起きるかわからない状態だった。
事故の何日も前から水漏れが確認されていた。会社は補修しながら石炭の掘削を続けていた。前年の11月にも大水が出たが、同じ箇所で事故が起きたのである。会社側は人命救済に力を尽くすのではなく、坑口から水が上がってこないようにと、松の板で坑口を閉めてしまったのだ。183人を生き埋めにしたのである。坑口前は家族や関係者が「まだ生きてるじゃないか!」と怒り、会社に行って「開けろ!」と抗議した。当然である。そこに特高警察が来て発砲し、4人が犠牲になったのではと言われている。真相は明らかにされていない。
石炭供出が至上命令とされていたことで引き起こされた事故であり、国の責任は明確だ。これまで政府は「遺骨の場所と深度がわからない」と、「刻む会」の遺骨調査の求めを無視し続けてきた。「刻む会」と市民の協力で遺骨の場所が明らかとなった今、福岡厚労相は「安全性」を前面に出し「財政支援の検討はしていない」と開き直っている。
遺族は80代、90代と高齢になっている。一刻も早く遺骨を引き揚げ、故郷に返してやらなければならない。国は事故の責任を認め、遺骨調査に早急に乗り出すべきである。
政府は侵略戦争での虐殺、植民地支配などの加害の歴史を認めないどころか、なかったことにして消し去ろうとしている。長生炭鉱の問題だけではなく、あらゆる加害の歴史を認め、謝罪してこそ、アジアの平和、友好の一歩を踏み出せるのである。 (沢)