-
2021.12.15
日本新聞
日本新聞 4445号記事 安保法制 違憲訴訟 広島地裁が一審17件目の請求棄却
日本を合法的に戦争する国にしてしまった安保法制。裁判所は違憲か否かの判断をせず、請求却下。安保法制違憲訴訟は戦争反対の闘い
12月8日、安保法制違憲訴訟の判決が広島地裁で行われ、原告の請求が棄却された。この訴訟は広島県内の被爆者や戦争体験者ら計289人が、「安全保障関連法は憲法に違反する。集団的自衛権を行使する基準があいまいなため、世界中で武力行使が可能となり、精神的苦痛を受けた」として、自衛隊の出動差し止めと一人10万円の国家賠償を求めたものである。
判決は、自衛隊の出動差し止め請求は「行政処分に当たらない」と却下した。そして「原告らの精神的苦痛は社会通念上、受忍すべき限度を超えているとはいえない」と、国家賠償請求を却下した。
“社会通念上、受忍すべき限度の精神的苦痛”とはどのような基準なのか。だれが決められるのか、全く理解できない。広島は原爆が投下された地である。あの悲惨な歴史を繰り返してはならないと、被爆者や戦争体験者は必死の訴えをしているのだ。再び戦争の危険がもたらされる法制化に、「受忍できる限度」などあり得ない。原告の共同代表の杉林さんは「戦争被害を誰にも経験させてはいけない」と訴えている。その思いが届かない判決だ。
安保法制違憲訴訟は全国22地裁、25裁判、原告総数は11月19日時点で7699名にのぼる。25裁判のうち、一審判決は広島判決で17件目。すべて憲法判断は示さず、原告側の請求を却下している。高裁判決3件も同様の判決である。
安保法制が日本を有
事に追い込む
12月10日には東京地裁で、安保法制違憲訴訟の第5回口頭弁論が行われた。裁判官が2人代わったために、防衛ジャーナリストの半田滋さんの再証人尋問が行われた。
報告会で半田さんは今回主張したことを語った。
「東京新聞の記者として防衛省、自衛隊を取材して30年。
2001年のアメリカ同時多発テロを受けてアメリカがアフガニスタン攻撃。日本がテロ対策特措法制定、ここから日本の独自判断で自衛隊派遣。
2003年、イラク特措法で陸自600人がイラクのサマワに派遣される。航空自衛隊の輸送部隊は、米兵を戦闘地域のバグダッドまで空輸。2万4000人の米兵を運んだ。これは憲法違反だと名古屋高裁で判断された。
2015年、安保法制制定。憲法学者みんなが違憲だという法律を通す国は他にない。
安倍政権下で、森加計事件、桜を見る会と政治の私物化が行われてきた。
2013年の第二次安倍政権で、閣議決定で集団的自衛権の行使を認め、自衛隊が米軍にできることを拡大。戦場に出撃する米軍機に給油、自衛隊の弾薬も提供できることを認めた。
安保法制によって、日本防衛だけでなく、密接な関係にある他国に対して武力攻撃されたら、他国を守るために自衛隊が外国で戦争できるとなった。
“自由で開かれたインド太平洋”と、外国で戦争するための軍事訓練を自衛隊は行っている。南シナ海に潜水艦を送り込んで、それを発見して攻撃する訓練。まさしく中国海軍の巨大な基地のある海南島での潜水艦との戦いを前提とする訓練だ。
アメリカは6年以内に台湾有事が起きると言っている。台湾有事になればアメリカは参戦する、日本は自衛隊を送り込んで、米軍とともに中国と戦う。中国にとって日本は敵対国となる。
違憲な安保法制を作ったことによって日本が有事になるんだと裁判所にわかってほしい、そういう気持ちで訴えた」
東京訴訟弁護団の古川健三弁護士は「来年2月4日が結審となる。憲法を守るのが裁判所じゃないか訴えていきたい」と語っていた。
半田さんの話からも、これまでの弁論からも安保法制は戦争に直結することは明らかである。裁判所は憲法を守る立場から判断すべきである。(沢) -
2021.12.08
日本新聞
日本新聞 4444号記事 青森で米軍がタンク投棄、人命軽視の暴挙
三沢基地所属の米軍が民家の近くにタンクを投棄し、青森空港に緊急着陸。地元への連絡は4時間後。日米地位協定を盾に住民の安全無視
11月30日、午後6時10分頃に米軍三沢基地所属のF16戦闘機が青森空港に緊急着陸した。この米軍機は着陸直前に燃料タンク2個を投棄している。1個は深浦町役場や住宅近く(民家まで約20~30メートル)の国道周辺で見つかった。もう1個は深浦町の山林で、野菜集出荷施設の近く(300メートル)で見つかった。米軍は「非居住地域に投棄した」と発表したが、実際は民家近くであり、住民は怒りの声をあげている。
三村・青森県知事は三沢基地の副司令官に「大惨事を起こしかねなかったということを忘れないでいただきたい」と抗議し、防衛省で岸防衛相に「大惨事につながりかねない事故や、地域の実情を無視した事案が立て続けに発生している。米軍に対する県民感情は悪化の一途をたどっている」と述べた。深浦町の吉田町長は東北防衛局長との会見で、「ちょっとずれたら民家の屋根だった。訓練空域に町も組み込まれていると認識させられたので、安全管理については米軍にきつく申し上げたい」と語った。
「安全確認されるまでF16の飛行中止を」という日本側の要請も無視し、12月2日には三沢基地所属のF16が飛行しているのが確認されている。日本人の安全など眼中にもない姿勢がみてとれる。
相次ぐ米軍機事故、
立ちはだかる日米地
位協定
今回、米軍機は青森空港に緊急着陸し、8時間近くとどまった。しかし、日米地位協定によって日本側は警察でも機体に触れることもできず、米軍関係者の到着、対応を待つしかない。
2004年に沖縄国際大学に米軍ヘリが墜落した時も、日本側が立ち入ることさえ許されなかった。日本は被害を受けながら、全く無権利であった。
11月には米軍普天間基地所属のオスプレイから住宅地に水筒が落ちたが、米軍は問い合わせがあるまで報告しなかった。
日米地位協定では、公務中の米兵が起こした事件の場合、日本は裁判権を有しないし日本の警察も介入できない。
2005年、厚木基地勤務の米兵が小学生3人をワゴン車ではねて逃走。警視庁が逮捕したが、「公務中」のため釈放。米側は裁判も行わず、減給処分のみ。
1985年~2004年に米兵の「公務中」の事件は7046件。そのうち軍事裁判を受けたのは1人、懲戒処分が318人である。
1995年には沖縄で小学生の女の子が米兵3人に拉致、強姦された「米兵による少女暴行事件」が起き、沖縄では大きな基地反対運動が起きた。この時も米軍は地位協定を理由に、3人の引き渡しを拒否した。
日本人の命や人権など何とも思わない事件が繰り返され、米軍はそれを問題にもしない。
ところが政府は繰り返される事件や事故に断固たる抗議をするどころか、アメリカの意のままに兵器を爆買いし、アメリカの基地建設費用や、米海兵隊のグアム移転費まで日本が出すのである。納得できる話ではない。そして2022年度以降、在日米軍に対する「思いやり予算」を大幅に増額するというのである。
なぜ日本が米軍を思いやらなくてはならないのか。少なくとも米軍は日本人の命など何とも思ってはいない。オスプレイなどの欠陥機を日本はアメリカでの価格の倍以上の額で購入している。いや、アメリカ自らも、他の国も買わないしろものを、である。
米軍が日本を守るというのは実際ではない。米軍との合同軍事演習は、日本が戦争に巻き込まれることにつながる。日本はアメリカと軍事同盟を組むのではなく、アジアの国々との経済協力、平和友好へと舵を切る時である。 (沢) -
2021.12.01
日本新聞
日本新聞 4443号記事 沖縄県知事が辺野古設計変更認めず
岸田政権も「辺野古移設が唯一の解決策」と沖縄の民意無視。基地などできない軟弱地盤に莫大な費用を浪費。辺野古新基地建設は中止に
11月25日、玉城・沖縄県知事は防衛省沖縄防衛局が県に出していた辺野古新基地設計変更の申請を不承認とした。これは埋め立て予定海域で見つかった軟弱地盤に対応するためのものであるという。
玉城知事は「完成の見通しが立たず、事実上、無意味な工事をこれ以上継続することは許されない」と語っている。
軟弱地盤はN値0で、“マヨネーズ状”と称されている。そのようなところに基地を造るなど不可能である。しかも最深90メートルというが、政府が改良工事を行うのは水深70メートルまでで、改良しない部分を残しての基地建設もあり得ない。
軟弱地盤改良のために、砂杭約7万1000本を海底に打ち込んで地盤を固めるために、さらに約353万3000立法メートルの海砂を採取しなければならない。土砂の増量も変更申請に含まれている。土砂の調達先は本部・国頭村地区だけだったのが、本島南部、宮古島、石垣島など7地区9市町村に拡大する。沖縄戦で犠牲となった人々の遺骨が残る土砂を米軍の基地に使うなど、全く許されないことだ。総工費は当初の3倍近い9300億円に膨れ上がり、工期も12年、これは政府の試算で実際はもっと増える可能性が大きい。
実現不可能な基地建設に、莫大な時間と費用をつぎ込む。儲けているのは大手ゼネコンだ。基地ができようができまいが、儲けさえすればいいというねらいが見えてくる。
「基地はいらない」と
いう沖縄の民意尊重を
1995年に米兵3人が女子小学生を強姦した。この事件を巡って、沖縄では米軍基地反対運動が高まった。県民大会には8万5000人が結集した。こうした運動の鎮静化をねらって、日米両政府が提示したのが1996年のSACO合意である。沖縄の11の米軍施設を返還するとして、沖縄の負担軽減策だといわれた。しかし実際は、老朽化し使い物にならないものを返還し、最新機能を備える基地強化であった。
このような姑息なやり方を見抜いた沖縄県民は、辺野古新基地に明確に反対の意思表示をした。選挙のたびに、辺野古新基地反対の候補を支持した。これに対して政府は「選挙は基地建設だけを問うものではないので、基地反対の民意とは言えない」とねじ曲げた。そのため、沖縄県民は2019年に辺野古基地建設だけを問う県民投票を行った。72%が反対票を投じた。
基地反対を、命をかけて貫いた翁長知事の後継者として、沖縄県民は玉城知事を誕生させた。今回、玉城知事が設計変更申請を承認しなかったのは当然である。
これまで玉城知事は何度も首相官邸を訪れたりして、沖縄県民は基地建設に反対だと訴え続けてきた。しかし、政府は聞く耳を持たなかった。岸田首相は安倍・菅内閣とは違うかのように登場したが、結局、「辺野古が唯一の解決策だ」と従来の自民党政権と全く同じ言葉を繰り返した。このようなことから、玉城知事は不承認で工事を阻止しようとしたのである。
これは国が沖縄の声を聞こうとしないことに対する対抗策である。国が真摯に沖縄県と話し合う姿勢をとったことは、残念ながら今まで一度もない。
玉城知事の不承認に対して、政府は対抗策を検討しているという。
11月23日には、普天間基地所属のオスプレイから宜野湾市野嵩の住宅街に金属製の水筒が落下した。米軍基地がある限り、基地周辺の住民は常に危険にさらされている。
政府は沖縄県を訴えるのではなく、基地建設を中止すべきである。
(沢) -
2021.11.24
日本新聞
日本新聞 4442号記事 沖縄戦場化に向かう軍事訓練中止を
11月下旬の自衛隊統合演習で、沖縄各地で大規模軍事訓練実施の計画。沖縄を再び戦場にする危険な動きに歯止めを。
平和が沖縄の民意
沖縄が軍事訓練の場とされている。
11月9日、宮古島と石垣島の北方海域で、航空自衛隊と米空軍が共同軍事訓練を行った。空自は救難捜索機U125AとUH60J救難ヘリコプターを1機ずつ、米空軍は垂直離着陸輸送機CV22オスプレイ、MC130J特殊作戦機が参加しての訓練であった。尖閣諸島に近い空海域での訓練で、中国に対する挑発である。
9日の軍事訓練を発表したのは2日後の11日である。この訓練に対して中国からどのような反応があったかについては、「運用、情報に関わるため、答えは控えたい」という。これでは沖縄の平和、沖縄県民の安全は守られない。
それだけではない。今月下旬(日時は明らかではない)、自衛隊統合演習の一環で、沖縄各地での軍事訓練が計画されている。
・石垣港に海上自衛隊の輸送班が寄港し、与那国島の祖納港との間で人員や車両の輸送訓練
・中城湾港に防衛省が借り上げた民間船で県外から部隊や物資を輸送する訓練
・宮古島で地対艦ミサイル部隊がシミュレーションによる模擬射撃実施
・北大東村の米軍沖大東 島射爆場で空自の戦闘 機や陸自のヘリコプタ ー、海自の護衛艦が実弾射撃訓練
自衛隊の統合演習は、隔年で行われる大規模軍事訓練である。沖縄各地が軍事訓練場として使われることは、とても危険なことである。訓練の中味は、日本が直接攻撃を受ける「武力攻撃事態」を想定したもので、まさに実戦さながらの訓練である。台湾有事や尖閣諸島周辺の緊迫化を意識したものだと言っているが、有事に備えたものではなく、有事を引き起こすものに他ならない。
沖縄での軍事訓練は、沖縄が標的にされる結果をつくる。再び沖縄を戦場とする危険な動きに歯止めをかけなくてはならない。
基地建設ではなく、
沖縄の自然を守る政
策を
50年前、琉球政府の屋良朝苗主席が佐藤栄作首
相に「建議書」を手渡した。日本復帰後の沖縄の将来像を示したものだという。「屋良建議書」の「はじめに」に次のように記されている。
「沖縄は、余りにも国家権力や基地権力の犠牲となり手段となって利用されすぎた。復帰という歴史の一大転換期にあたって、このような地位からも沖縄は脱出していかなければならない」
沖縄戦での犠牲、米軍統治下での軍事植民地状態にされた犠牲であり、沖縄戦で捨て石にされたこと、戦後も沖縄を日本から切り離したこと、沖縄に米軍を集中させたなどの「手段」を批判している。
「建議書」は、復帰後の沖縄の振興開発計画は地域住民の総意であること、国は県が策定した計画を財政的に保障すること、県民の意思に基づく計画に国は口を出さないことを明記している。米軍基地撤去、自衛隊の沖縄配備にも反対している。
「屋良建議書」を政府は何一つ守ろうとしてこなかった。いや、全く逆のことをしている。沖縄に基地を集中し、日米合同軍事訓練を繰り返している。辺野古新基地反対の民意を、何度も沖縄県民は繰り返し示してきたが、それを無視して、政府は建設を続けている。
11月19日には、「沖縄・奄美の世界自然遺産登録を記念する式典」が沖縄空手会館で行われ、「先人から受け継いだ自然を守る」と誓い合った。戦争は自然をことごとく破壊する。沖縄を軍事訓練の地、戦場へと向かわせてはならない。沖縄だけではなく、日本のどこにも米軍基地はいらないし、軍事訓練もいらない。戦争を避けるには平和・友好の外交以外にない。 (沢)