日本新聞
日本新聞 4535号記事 3.11 子ども甲状腺がん裁判
子どもの命を守る闘い
「治療のいらない軽微ながん」と非情な言葉を吐きつける東電側。公表でも358人の小児甲状腺がん発症。原因が原発事故なのは余りに明白
東電福島第一原発事故から12年半の歳月が流れた。しかし事故による被害はいまだに続いている。政府は放射性汚染水の海洋投棄を国内外の中止要請に耳を傾けることもなく、8月24日に強行した。中国を始め、国際世論の批判を浴びている。
9月13日、東京地裁において、3.11子ども甲状腺がん裁判の第7回口頭弁論が行われた。地裁前には200名以上が駆けつけ、83名が傍聴した。
裁判の前に、地裁前での集会が行われた。
弁護団から、今回から裁判長が代わることが報告された。これまで原告7人全員の意見陳述が終わっている。新しい裁判長は何も聞いていない。新たな裁判長に対して、弁護団は、原告2人の意見陳述の時間を取ってほしいと要望を出したが、それが実現できる見込みが今のところないという。井戸弁護団長は、「裁判の前の進行協議で、次回以降、原告の声を直接裁判長に届けられるよう要求していく」と話した。そして、東電と原告側の一番の争点は、潜在がんなのか被ばく由来なのかという点だ。執刀した鈴木医師は「甲状腺がんは非常に進行している」と論文に記している。これに対する東電側の反論は何も反論になっていないことが指摘された。
古川弁護士は「原告の一人は来週末に検査をし、すでに2回手術をしているが、結果を見て、次の手術をどうするか判断する。不安な気持ちを話していた。裁判所には原告の声をきちんと聞いてもらいたい」と訴えた。
あじさいの会共同代表の牛山元美医師は「甲状腺がんは放っておいてもいいがんというものではない。病気に悩んで人生が変わってしまった子ども達の実際をみてほしい。裁判に関わって、たくさんの支援の方がいることが、大きな励ましになっている。最近一番気になったのは、疫学の専門家たちが“被ばくの影響かもしれないということ自体が、被ばくした社会の復興を妨げる”と言っている。だからこそ、真実を訴えなければならない」と語った。
福島の小児甲状腺がん多発は原発事故由来
裁判では鈴木弁護士がプレゼンをおこなった。小児甲状腺がんが通常は100万人に1人か2人、事故後、福島では事故当時18歳未満の子ども38万人の健康調査を行った。その結果、1巡目で187例、2巡目で125例の甲状腺がん、あるいは疑いがみつかった。しかも、その77.6%でリンパ節転移が確認された。これを東電はスクリーニング検査の結果だと言う。調べなければ生涯わからない、治療の必要もないがんだというのだ。これについて、鈴木弁護士は明確に否定した。
東電は「甲状腺がん多発と原発事故との因果関係はない」という根拠に、UNSCEARの報告書を論拠にしている。ところが裁判で、UNSCEARの報告書のデータの開き方を質問している。つまり、報告書を見もせずに論拠としているのである。これでは話にならない。
報告会では、UNSCEARがビキニ水爆実験による被爆が問題になって、放射能汚染に対する国際的な関心が高まった時に、それを抑えるために作られた機関であると指摘された。
福島からの避難者で、大阪で裁判闘争を闘っている森松さんは、「原告を孤立させないでほしい。甲状腺がん多発は事実だ。原告を支えていこう」と力強く訴えた。
新たに副団長となった杉浦弁護士は「裁判はまさに被害の問題になる。原告に寄り添うことが大事」、同じく副団長の斉藤弁護士は「声をあげた原告がさまざま言われる。それを守ろうと参加した。原告達が怖がらずに声をあげれるよう支えていく」と語った。
国と組んで権力でごり押ししてくる東電側。それに対して若者たちを守る良心の闘い、子ども達の命を守る闘いである。 (沢)