日本新聞
日本新聞 4501号記事 東京高裁が東電旧経営陣無罪の不当判決
株主訴訟は旧経営陣に約13兆円の賠償命令、刑事訴訟は無罪。津波対策取らない責任は明確、裁判所は原発推進の政府への忖度をやめよ
18日、東京高裁は東電福島第一原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電の旧経営陣3人の控訴審で、いずれも無罪の判決を言い渡した。これは決して容認できない不当判決である。
東電福島第一原発事故は、福島に住んでいた人々に放射能汚染による甚大な被害をもたらした。故郷を失い、生業も住居もコミュニティもすべてを失い、避難生活を余儀なくされた人も多い。命を失った人もいる。今も健康被害に苦しむ人もいる。
被害は福島だけに限らない。事故当時、東京からも西へと避難した人もいる。妊婦や青年、小さな子どもへの影響も懸念された。
しかし、何年経っても事故の責任を誰も取らない。これに対して起こされたのが刑事訴訟である。津波対策などを怠り、原発事故を引き起こした、その責任を明確にしてほしいという思いからである。
2019年9月の東京地裁判決は、勝俣恒久元会長、武藤栄元副社長、武黒一郎元副社長の3人の被告に対して無罪判決を下した。
今回の東京高裁の控訴審判決は、一審判決を踏襲している。
国の地震予測「長期評価」を踏まえて、東電子会社は最大15.7メートルの津波予測を東電に報告していた。事故はその3年後である。指定弁護士は、防潮堤建設や建屋の浸水対策などでも事故は防げたと指摘した。
これに対して判決は、長期評価に対して「わが国有数の専門家が審議して出した結論に信用が置けないわけではない」としながら、「津波襲来の現実的可能性を認識させる情報ではない」とおおいに矛盾した結論を出している。自然災害の確実性を求めること自体、無理がある。確実性がないから対策を取らなくても落ち度はない、これでは一切責任は問われないことになる。
原発事故の国と東電の責任は明らか
今判決に対して、検察官役の指定弁護士の石田省三郎弁護士は、「結論ありきの判決。国の原子力政策に呼応した政治的な判断をした」と述べた。被害者参加代理人の海渡弁護士は、「裁判官は現場に行くこともなく、原発事故の被害に向き合おうとしなかった」と批判した。
「福島原発告訴団」の武藤類子団長は、「はらわたが煮えくり返る思い。最高裁に上告してほしい」と訴えた。
昨年7月の東電株主代表訴訟の判決では、旧経営陣の責任を認め、約13兆円の賠償を命じている。「長期評価には相応の科学的信頼性があり、巨大津波は予見できた。建屋や機器の浸水対策で原発事故を回避できた」と裁判所は判断したのである。なぜ、同じような証拠に基づいた民事裁判と刑事裁判で、これほど違う判決が出るのか。
政府は今、原発の60年を超える運転や、原発新増設を掲げ、あろうことか、原発推進に動いている。東電福島第一原発事故から何も教訓を得ようとしない政府の姿勢は、どんなに原発事故の被害者を傷つけていることか。今回の東京高裁判決は、政府の方針を受けて、国に忖度したものであることははっきりしている。これでは第二、第三の原発事故を防ぐことは出来ない。世界に放射性物質を拡散し、今も収束の目途もない原発事故を起こした日本が、いち早く行うことは原発からの撤退以外にないのである。
裁判所は三権分立の原則に立ち返り、政府に忖度することなく、二度と重大な事故を起こさないために、事実に基づいて公正な判断をすべきである。 (沢)