日本新聞
4572号「農政の憲法」を改悪、農業壊滅への道
4572号1面記事
「農政の憲法」を改悪、農業壊滅への道
食料自給率38%の危機的状況をさらに悪化させる改悪。農家の権利も消費者の権利もないがしろ。輸入に頼る農業からの脱却こそ急務
5月29日、「改正食料・農業・農村基本法」が参院本会議で与党、日本維新の会の賛成で可決、成立した。
「食料・農業・農村基本法」は1999年に制定され、「農政の憲法」と呼ばれている。改定は25年ぶりに初めて行われた。改定の根拠とされたのが、ウクライナ戦争などによって、食料安全保障の確保の重要性が浮き彫りとなったことが上げられている。
主な改定内容は
・基本理念に「食料安全保障の確保」を追加
・輸出促進のため、国は農産物の競争力を強化する
・消費者は、環境負担が少ないものや持続的な生産に資する商品の選択に努める
・大規模農家だけでなく多様な農業者が農地を確保できるよう配慮
・障がい者などが農業活動できるように環境整備する
では一つ一つ見ていこう。
基本理念に「食料安全保障の確保」を追加したというが、最近、安全保障という言葉が飛び交う。「経済安全保障」「食料安全保障」これらが軍事の安全保障と結びついている懸念は大きい。実際、有事の食料安全保障のために、花を作っている農家にいもを作るように命令を出し、従わなければ罰金を科すとしている。有事だからと、急に作付けを変えることなどできない。
価格に費用を転嫁できるように、理解増進、費用の明確化を進めるというが、実際は経費より安く米や野菜を売らなければならない状況である。大手企業の農業参入でますます価格統制が行われている。
輸出促進のため、農産物の競争力を強化というのも、大手企業にしかできないことだ。食料自給率が38%と極端に低い状況こそ変えていかなくてはならない。輸出の話ではない。食料自給率を引き上げていくことが最優先である。
消費者の商品選択が大きな問題のように言うが、消費者に正しい情報を提供することが先である。アメリカの余剰農産物を輸入するために、パン食を推奨し、欧米食に切り替えていったのは消費者のせいではなく、政府による意図的な宣伝によるものである。
大規模農家だけではなく多様な農業者が農地を確保できるようにする、これは企業が農業に進出しやすくするためのものであり、農業の発展や農家保護とは無縁だ。
障がい者が農業活動できるよう環境整備。農福連携で、農家も助かり、障がい者も仕事に誇りを持って取り組めるようになるのはいいことである。一部の者がそれを悪用することがないことを望む。
食料自給率アップ、種の自給が農業のカギ
日本の農家の平均年齢は68歳である。今の農政ではさらに高齢化するのは明らかである。何十年も農業委員を務めていた方が、「息子に農業をやる、と言われて、とっさに、“それはやめて!”と言ってしまった」と話していた。そう言ってしまった自分が悲しいのである。
食料自給率38%の現状からどう引き上げていくのか、それを第一にして、80%までもっていかなくてはならない。
生産費用の高騰で農家は悲鳴を上げている。欧米並みの直接支払い制度の拡充が必要だ。
国がめざすのは農業の大規模化だが、そうではなく家族農業など小規模農業の保障こそが、農業の未来を切り拓く。その具体化のための施策を講じるべきだ。
食料の保障の重要なポイントは種である。日本は今、種の9割以上を外国の圃場に依存している。国内で安全な種を確保することが緊急課題だ。
米の需要が減っているからと、田んぼを畑にする方針が出されている。それでどうやって、食料の確保ができるのか。義務でもないミニマムアクセス米を輸入するのではなく、日本の農家の米作りを保障し、国の責任で買い取る。それを備蓄や、内外の援助に回すことで食料の確保ができる。
農水省は「みどりの食料システム戦略」で、農地面積の4分の1の100万ヘクタールを有機農業にするという目標を提示している。しかし、何の具体策もないために国際社会からも「できるわけがない」と笑われているのが実情だ。
地方の一次産業を大事にすれば、人も戻っていく。政策の根本的な転換が求められる。 (沢)