日本新聞
えん罪を防ぐため再審法の早期改正を
4603号1面記事
えん罪を防ぐため再審法の早期改正を
捜査機関によるねつ造を検証対象から外した袴田事件最高検検証は全く不当。当事者への聞き取り調査、第三者を入れた検証が不可欠
昨年12月26日、最高検が袴田事件を検証した報告書を公表した。
捜査機関による「3つのねつ造」についてどのような検証結果なのか、そこが一番肝心なことである。ところが最高検は、「現実的にあり得ない」として、ねつ造について検証しなかったのだ。これでは検証とは言えない。
袴田さんの無罪を認めながら、「ねつ造と断じたことには強い不満を抱かざるを得ない」と全く理に合わない畝本検事総長の談話とうり二つである。ねつ造でないと言うなら、公判の中で、ねつ造ではない証拠を出して論議すべきだが、それもしなかった。
原告側は、「5点の衣類」「衣類の一部の切れ端」「自白調書」がねつ造であることを科学的に説明している。
「5点の衣類」は、徹底捜査した後に、事件から1年2カ月も経ってから味噌樽から「発見」されるという不自然、そして味噌にそれだけの長期間浸かっていれば黒くなるはずの血痕が、鮮やかな赤色であることの不自然、さらに、ズボンは袴田さんにははけないものだった。「5点の衣類」がねつ造なのだから、切れ端もねつ造だ。
自白の強要は、取り調べの録音テープから明らかである。袴田さんがいくら「やってない」と言っても、「お前がやったんだ」と連日、長時間にわたって問い詰めて自白に追い込んでいったのである。
再審では反論もせず、静岡地裁判決に対しての、「ねつ造については不満」という畝本談話も、最高検の「科学的な根拠を伴っているとは評価しがたい」という非難も、到底受け入れられない。科学的でないのは検察側ではないか。
58年間も殺人犯のえん罪を着せられ、死刑囚として苦しめられてきた袴田さんに真摯に向き合おうという姿勢は全く見られない。袴田さんは毎日、死の恐怖にさらされ、拘禁症を患ってしまった。袴田さんの人生は、無罪となった今も取り戻すことは出来ない。その実際をどうとらえるのか。
袴田事件の検証を
やり直すべき
最高検は、無罪判決から3カ月足らずで、ねつ造の事実さえ検証しようとせず、報告書を出した。これは検証とは言えない。第三者を入れることもせず、当時の捜査関係者の聴取もしていない。えん罪と向き合う気は全くないのである。
第三者を入れ、関係者を聴取してやり直すべきである。
そして再審法の改正を早急に行い、すべてのえん罪を晴らさなければならない。狭山事件の石川一雄さんは、61年もえん罪を着せられ、再審を棄却され続けている。袴田さん以外にも、死刑囚としてえん罪を着せられて拘留されている人のえん罪を晴らさなければならない。
1992年2月20日、福岡県飯塚市で小学1年の女の子2人が通学途中に誘拐され、暴行されて殺され、山中に放棄された。久間三千年さんが逮捕された。久間さんは無実だと言い続けた。しかし2006年10月8日に死刑判決が確定。久間さんは弁護士と「再審のための弁護の打ち合わせ」として、福岡拘置所で面会していた。法務省は久間さんの再審請求の意思を承知していたのだ。また、足利事件の菅家さんと久間さんのDNA型鑑定はMCT118型だが、足利事件ではそれがおかしいと、最新のDNA型鑑定を行うことになった。それが報道されたのが2008年10月17日。1週間後の10月24日に法務省矯正局は法務相に死刑執行の上申書を起案。その日に法務相が捺印、4日後の10月28日に死刑執行。異例のスピードで死刑執行。しかも証人への証言の誘導も明らかになっている。
この飯塚事件は、第二次再審請求が棄却され、今も闘いは続いている。
冤罪を晴らすための再審が速やかに行われるよう、再審法の早急な改正とともに、死刑制度の廃止を求めるものである。 (沢)