日本新聞
袴田巖さん、名誉棄損で国を提訴
4639号1面記事
袴田巖さん、名誉棄損で国を提訴
「控訴しない」としながら「犯人視」
する畝本検事総長談話。えん罪で58年も殺人犯として死刑囚にされ
た袴田さんに誠意ある謝罪を求む
1966年の静岡県一家4人殺害事件で、昨年9月26日、静岡地裁は袴田巖さんに再審無罪判決を言い渡した。しかも検察側が「証拠」として事件後1年以上経ってから、味噌樽から「発見」した5点の衣類や「自白」を検察の「ねつ造」と断じた。事実、味噌樽に1年以上浸かっていた「5点の衣類」の血痕が鮮やかに残っていたり、検察が返り血だと言う衣類が、下着の方が上着より血痕が多いこと、ズボンが袴田さんには小さくて履けないなど、不自然なことが多かった。まさに「ねつ造」としか言えない。
検察はこれに対して控訴しなかったため、袴田さんの無罪は確定した。ところが畝本検事総長は「控訴しない」としながら「被告人が犯人であることの立証は可能」「判決が『5点の衣類』をねつ造と断じたことに強い不満」などと、実に矛盾した内容の談話であった。そして58年という長い間、死刑囚の汚名を着せられた袴田さんへの謝罪の言葉は一言もない。
9月11日、袴田巖さんは「談話で犯人視され名誉が傷つけられた」として、国に計550万円の損害賠償を求めて静岡地裁に提訴した。訴状では「談話が名誉回復や社会復帰を著しく阻害した」「原告の名誉を棄損する違法なものであり、速やかに取り消すべきだ」と主張。小川英世弁護団長は「袴田さんの名誉を傷つけ、無罪判決を出した裁判所を侮辱する行為だ」と指摘した。
人生を奪ったことに何の反省もない検察側、再審法改正急務
58年と言ったら人生そのものと言っていい年月である。その年月を、えん罪を着せられ、死刑囚として生きらされた袴田さん。いつ死刑執行の日を迎えるかわからない、耐えられない恐怖の中で袴田さんは拘禁症を患ってしまった。姉のひで子さんが面会に行っても「姉などいない」と面会を拒否した日々もあった。その中、ひで子さんは巖さんを支え続けた。そして迎えた再審無罪判決。それでも尚「犯人であることの立証は可能」と犯人視をやめない検事総長談話。提訴は当然である。
ひで子さんは「巌が無罪になってそれで終わりじゃない。再審法改正を求める」と言っている。実にき然とした生き方である。
冤罪の温床となっているのは「人質司法」にある、それを変えなければならない、と言われている。日本の刑事司法制度は、逮捕された被疑者を自白するまで釈放しないのが当たり前に行われている。警察の留置場で身柄を拘束され、留置場が「代用監獄」化している。密室の留置場に入れられ、自白を強要される。人権無視も甚だしい。また「司法取引」も合法化されている。自分の罪を軽減してもらうために、「目撃証人」になるのだ。「福井女子中学生殺人事件」で犯人にされ再審無罪となった前川さんの場合、「目撃証人」が現れ、その供述が次々変わっているのに、検察がその指摘を無視して、とにかく前川さんを犯人にでっち上げたのである。
えん罪に苦しむ人がこれ以上増えないためには、代用監獄をやめさせ、取り調べ可視化、録音録画の徹底、そして再審法改正を急がなければならない。証拠開示の規定を明らかにし、すみやかに証拠開示が行われるようにする、検察官の不服申し立ての禁止、再審請求審の期日の指定を明らかにするなどで、いたずらに再審を引き延ばす現在の状況を変える再審法改正を早急に決定しなければならない。
多くのえん罪事件がある。狭山事件の石川さんは、えん罪を晴らす前に、3月11日、無念のうちに亡くなられた。えん罪でありながら死刑が執行された人もいる。
えん罪で人生を奪われることのないように、再審法の早期改正を求める。検察は袴田さんに人生を奪ったことを謝罪すべきである。 (沢)