日本新聞
高市首相の労働時間規制緩和方針に抗議
4647号1面
高市首相の労働時間規制緩和方針に抗議
労働時間規制のない裁量労働制の適用拡大も検討。「柔軟な働き方で
ないと国際競争力が低下」との企業側の主張重視。働く者を守るべき
高市首相は上野厚生労働相に「労働時間規制の緩和の検討」を指示した。1月から厚生労働省の審議会の分科会では、労働基準法などの見直しを検討している。しかし、この見直しが労働者の立場に立ったものなのかどうかは、はなはだ疑問である。高市首相の「労働時間規制緩和」発言からは、働く者のことを考えてのものとは思われない。もともと、この規制緩和は企業側からの「柔軟に働ける環境を整備しないと、国際競争力が低下する」という要請に応えたものだ。
すでに労働時間規制の対象から外されているものとして、裁量労働制、高度プロフェッショナル制度がある。裁量労働制は、仕事の進め方や時間配分を労働者の「裁量」にゆだねる働き方である。早く終わったらそれで終了できると言われているが、逆に終わらなければ延々と働かなければならない。高市政権は裁量労働制の拡大も検討している。
過労死遺族が労働時間規制緩和に抗議
高市首相の「労働時間規制の緩和検討」指示に対して、過労死遺族らが懸念を表明している。
2015年に電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24歳)が過労自殺した。母親の高橋幸美さんは「犠牲者は娘で終わりにして」と訴え続けている。今回の労働時間規制緩和についても「過労死ラインまで働かせるのはやめてください。上限規制を緩める政策は絶対にしないでほしい。大切な家族が馬車馬のごとく働かされて過労死した。命が奪われる働き方に傾いていくことが心配でなりません」と訴えている。
高市首相は「心身の健康維持と従業員の選択を前提にした労働時間規制の緩和の検討」だとしている。しかし、今の規制は過労死ライン水準である。それを緩和してもっと働かせるというのだから、首相の言う「心身の健康維持」などできない。緩和されたら、「従業員の選択」など絵に描いた餅にすぎない。「法的にも問題はない」と、会社に労働時間拡大を強いられるのは明らかである。
「残業代が減ることによって、生活費を稼ぐために無理をして副業することで、健康を損ねてしまう方が出ることを心配している」これが高市首相の労働時間緩和の理由だという。よくもこのような思ってもいないことを言えるものだ。
本当に労働者の健康を心配しているなら、労働時間を増やすのではなく、給料を増やすことを考えるべきだ。労働時間を増やせという企業の要請を取り上げるのではなく、企業に内部留保金をため込まずに賃金を上げるようにさせるべきだ。
安倍元首相は「企業が儲ければ労働者にそのしずくがしたたり落ちる」と言った。高市首相も同じことを言っている。実際は、大企業はいくら儲けても賃金を上げようとはしない。ため込んだ内部留保金は2024年末時点で637兆円を超えている。13年連続で過去最高を更新し続けている。その一方で働く者の給与は30年間上がっていないという異常事態である。歴代政府は法人税の減税で更に企業を優遇してきた。裏金問題もここから起きている。高市政権は裏金問題をそのままにして、裏金議員を温存している。
軍事費はGDP比2%達成を2年間前倒しし、その財源は問わない。一方で、社会保障の充実を訴えると財源はどうすると言う。軍備拡大をやめれば財源は十分ある。なぜ野党はそこを突かないのか。
働く者が健康に安心して働ける環境づくりこそが、政治の成すべきことである。(沢)