-
2023.08.23
日本新聞
日本新聞 4531号記事 政府・東電は汚染水の海洋放出を中止に
8月末にも汚染水を海に流そうとしている政府。海洋放出反対の世界の声、国内の声に耳を傾け、提案されている代替案を検討すべき
8月18日、首相官邸前で、「汚染水を海に流すな首相官邸要請行動」首相官邸前集会が行われた。主催は「これ以上海を汚すな市民会議」と「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」である。司会を務めた武藤類子さんの「岸田首相は日米韓首脳会談のため、アメリカに行っている。しかし、岸田首相の聞くべき声は、バイデン大統領や尹大統領ではない。福島県内の市民の声、国内の市民の声、他の国々の市民の声だ」という訴えに共感を覚えた。
主催者を代表して佐藤知良さんは「政府と東電は“関係者の理解なしには(汚染水を)いかなる処分もしない”と文書で約束している。戊辰戦争の時に会津は大変苦労した。東北は大変苦労した。東日本で塗炭の苦しみを味わって12年。沿岸漁業はようやく2割の水揚げに至ったばかり。ここで汚染水を流されたら、生業が成り立たない。絶対に流させるわけにはいかない。会津の10の掟に、成らぬものは成らぬものです、とはっきりある。成らぬものは成らぬ、汚染水は流させてはいけない!」と力強く訴えた。
あじさいの会事務局長の千葉親子さんは「放射能ほど不条理で、差別的で理不尽なものはない。原発事故から12年、国も東電も責任も取らず、よく来たものだ。事故を起こした原発からの汚染水を、大丈夫だと言って流そうとしている。説明会で一人の男性が言った。“海に汚染水を流すことは、俺のリンゴ畑に汚染水を撒くことと同じだ。何年も何年も撒く。許されない!”汚染水の海洋投棄は絶対に反対だ」と述べた。
原水禁事務局長の谷さんは「原水禁で8月7日に長崎で、汚染水の海洋放出をテーマとした国際シンポジウムを開催した。海外からも、薄めて流すという前例を日本が作ることがどういうことか、指摘されている。他の原発がトリチウムの水を流しているのと福島第一原発の水は違う。事故を起こした原発の水で、どういうものかつかみ切れていないものを流すということは科学的ではない」と指摘された。
海洋放出は地球規模の環境汚染、中止以外に方法はない
続いて参議院議員会館で、「汚染水を海に流すな首相官邸要請行動」院内集会が行われた。
「さようなら原発1000万人アクション」呼びかけ人の鎌田慧さんは「汚染物を海に投棄する。今までの公害病を考えてください。水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそく、これらはすべて企業が環境汚染を公然とやってきた。水俣は今も続いている。こういう結果が出ているのに、130万トンの汚染水を30年間にわたって海に流す。地球環境、世界の水産業者に影響する。国際的な問題で日本の恥だ。無責任な廃棄、放流は絶対認めない。頑張っていこう」と呼びかけた。
経産省に対して要請書を読み上げて手渡した。要請書の中味をしっかりと受け止めてほしいものだ。
海渡弁護士は「汚染水の海洋放出は、国際法上も国内法上も違法である。海洋放出が行われ、消費者が魚を買わなくなるのは風評被害ではなく、正当な自衛行動だ。漁業者は大変な被害を被る、それは風評被害ではなく政府による被害だ。安全な方法を取るのが当然だが、その評価もなされていない。脱原発弁護団はあらゆる努力を続け、何らかの裁判手続きで無謀な海洋放出を食い止める努力を最後まで続ける」と表明した。
8月20日、岸田首相は東電福島第一原発を視察し、22日にも関係閣僚会議を開き、汚染水海洋放出時期の最終協議を行う方針を出した。
汚染水の海洋放出には一分の正当性もない。政府は海洋放出を中止し、代替案を検討すべきである。そしてこれ以上、汚染水が増えないように、建屋内に地下水が流入することを早急に防ぐ措置を取ることを最優先すべきである。 (沢) -
2023.08.16
日本新聞
日本新聞 4530号記事 平和を発信する沖縄に学び反戦を
「台湾有事」宣伝し戦争に向かう動きに反対。「沖縄を東アジアの平和のハブとする」と訴える沖縄県民に学び、戦争を防ぐ平和・友好の道を
日本の敗戦から78年、戦死した親や兄弟をしのぶ声が新聞紙上やテレビやラジオから流れてくる。どんなに月日が流れても親しい人を失った悲しみは消えない。ましてや戦争という不条理な状況の中で命を奪われた無念は、解決できるものではない。
ところが78年経った今、日本政府は戦争へと向かう道をひた走っているのだ。岸田首相はG7の広島サミットで、「今日のウクライナは明日の東アジア」と言った。ロシアが中国、ウクライナが台湾として、「台湾有事」を避けられないものと言っているのである。
果たしてそうだろうか。1978年に日中平和友好条約が結ばれ、「一つの中国」、台湾は中国内部の問題だと確認した。それなのに日本は今、中国の内政に干渉し、アメリカが声高に叫ぶ「台湾有事」を吹聴する。「台湾有事」つまり、中国が台湾を攻める事態になったら南西諸島も危ない、だから南西諸島に基地を造らなければならない、軍事費を増やし軍備増強しなければならない、というのである。
これは正しいだろうか。台湾では8割以上が「現状維持」を意思表示し、独立派は増えていない。アメリカがこの独立派を刺激し、独立派が武力を使う強硬手段に出れば、中国がこれを制しにかかる。米軍が南西諸島からミサイルを撃って、独立派を支援する。南西諸島が戦場と化す。これが「台湾有事」である。つまり、アメリカや日本が事を起こさなければ「台湾有事」は起こらないのだ。
「台湾有事に備えて軍備増強」ではなく、戦争を防ぐことを考える時なのである。
平和への道を歩む時
ソ連邦解体後、アメリカはアメリカの世界一極支配体制を築こうとした。そのためにはロシアと中国が邪魔になる。そこでウクライナのNATO加盟問題、ウクライナ東部住民弾圧問題でロシアを挑発した。そしてロシアはウクライナに侵攻した。アメリカ主導のNATOはウクライナに武器を供与して、戦争を長引かせている。
次は中国を挑発してアジアで戦争を起こそうとしている。かつては“貧困のアジア・アフリカ”と言われたが、人口においても経済力においても、アジアやアフリカの国々はどんどん成長している。(日本を除いては)
2022年の名目国内総生産は、1位がアメリカ、2位が中国、3位が日本、中国は日本の4倍である。アメリカのゴールドマンサックスの統計によると、50年後の1位は中国、2位はインド、3位はアメリカ、続いてインドネシア、ナイジェリア、パキスタン、エジプト、ブラジルだという。その時、日本は12位に転落しているというのだ。
今のうちに中国に打撃を与えておいて力をはぎ取りたいというのが、アメリカのもくろみである。日本はアメリカの戦略下で、滅びの道に進むのか。
琉球王国は戦争しない平和の歴史を築いていた。中国とは500年以上の友好の歴史をもつ。これに対して日本は明治維新後、特に、領土拡張を進めた。武力で琉球を併合し、朝鮮半島を植民地にし、中国大陸、アジアの国々を侵略した。
沖縄県民は琉球王国の時と同じ、万国津梁=平和の架け橋になろうという考え方を変えてはいない。そして日本は今も侵略戦争時と同様、戦争へと向かっている。
今大事なのは、戦争に備えるのではなく、戦争を起こさないことである。「台湾有事」宣伝に惑わされず、平和を克ち取る反戦の行動をしよう。 (沢) -
2023.08.09
日本新聞
日本新聞 4529号記事 敗戦から78年、不戦の誓い新たに
防衛白書に「敵基地攻撃能力」明記し戦争に向かう日本。日本の侵略戦争、アメリカによる原爆投下の歴史を教訓に二度と戦争しない国に
8月6日は広島に、9日は長崎に、アメリカが原爆を投下した日である。それから78年経った。そして日本が中国、朝鮮半島をはじめ、アジアの国々を侵略して、ありとあらゆる残虐行為をしたことも忘れてはならない。
その戦争から78年、今日本はどこに向かっているのか。
「敵基地攻撃能力」を2023年版防衛白書に明記の危険
7月28日の閣議で浜田防衛相は、2023年版の防衛白書を報告した。要旨は次の通り。
・中国は軍事力を急速に強化。国際秩序への「最大の戦略的な挑戦」
・中国、ロシア両軍の日本周辺での共同訓練は「重大な懸念」
・国家安全保障戦略など3文書を詳述。自衛隊の体制強化、2027年度までの5年間で約43兆円の防衛費の必要性強調
・弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮は「一層重大かつ差し迫った脅威」
中国、ロシア、北朝鮮が国際秩序を破壊し、有事を作りだそうとしている、というのである。それは事実か。「自由で開かれたインド太平洋」などと言って、アメリカが主導し、日本、オーストラリアなどと中国包囲網を組んでいる。アメリカは中国包囲網にインドも取り込もうとしたが、見事失敗した。インドは中国との経済協力関係を重視し、「特定の国を包囲網の標的にしたインド太平洋戦略に乗ることはない」と明言している。
これに対して日本は、アメリカの世界戦略通りに動こうとしている。アメリカが軍事費倍化を要求すればそれに応じ、5年間で43兆円、ローンも含めれば60兆円に増やすことを決めた。そして中国を敵視し、南西諸島の軍事要塞化を急ピッチで進めている。住民の反対の声を無視して、軍事基地を建設し、住民避難のためだとシェルターまで造っている。住民が必要としているのは、避難するためのシェルターではなく、身の危険のない平和な日常である。
米軍が南西諸島から中国に向けてミサイルを撃つ、そして後を引き継ぐのは自衛隊だ。島を移動しながらミサイルを撃つ。島全体が標的になるのは明らかだ。「有事」は起きるのではなく、日米が引き起こすのである。南西諸島を戦場に、自衛隊員など日本の若者が危険にさらされるのを、米軍は高みの見物、こんなシナリオを決して現実のものにしてはならない。
日本の侵略戦争で、アジアの国々の犠牲者は2000万人を優に超えている。そして日本人も310万人が犠牲になった。その一方で、戦争で儲けた者が、今また軍需産業で儲けようとしている。政府は軍需産業を支援し、強化し、武器輸出まで解禁しようとしている。戦争で商売する死の商人はアメリカだけの話ではない。
侵略戦争での南京大虐殺、従軍慰安婦など日本軍による蛮行、強制連行、強制労働、そして学徒動員、特攻隊、原爆投下。日本の加害の歴史を見ても、被害の歴史を見ても、戦争は悲惨なことばかりである。78年経った今、私たちはどのような未来へと歩んでいくのか。
二度と戦争を繰り返してはならないと、戦争放棄、不戦の憲法9条を含む日本国憲法が1946年に制定された。戦争の体験を語る人が少なくなっている今、私たちは“戦争は絶対にしてはならない”という先人の思いを引き継いでいかなくてはならない。
「自由で開かれたインド太平洋」はアメリカが好き放題にできるものである。戦争のない平和な世界こそ、自由で開かれた世界だ。不戦の憲法9条を守り抜こう。 (沢) -
2023.08.02
日本新聞
日本新聞 4528号記事 最老朽炉・高浜原発1号機再稼働の暴挙
新規制基準審査クリアの11基が再稼働。原子力規制委は独立性なく政府ベッタリ。経産省は原発事故対策費の消費者負担制度新設
7月28日、関電高浜原発1号機が再稼働した。高浜原発1号機は運転開始から48年経過し、国内で最も古い原発である。東電福島第一原発の事故を教訓にすれば、原発は人類がコントロールできない危険な代物であることは明白である。原発を運転すること自体、やめた方がいいことははっきりしている。老朽原発を動かすなど、してはならないことだ。
再稼働して現在動いている原発は11基である。新規制基準の審査をクリアしたことが再稼働の根拠である。この審査をする原子力規制委員会は独立した機関だというが、実際は政府の意向通りに動いている。岸田政権は、原子力の最大限の利用を掲げている。それに呼応して、次々新基準適合のゴーサインを出した規制委。原子力を規制するどころか推進しているのが実際だ。
運転48年の高浜原発1号機、運転46年の美浜原発3号機、あとの9基すべてが25年以上、大方が30年を経過している。
福島の原発事故後、原発の運転は「原則40年、最長60年」とされたが、今年5月に「改正電気事業法」が成立し、60年を超える運転が可能になってしまった。高浜1号機で言えば、12年半の運転停止期間を差し引いて60年までとされる可能性がある。
現在の時点でも、12年半も運転していなかった原発の再稼働は危険を極める。
運転40年を超える美浜原発3号機では、昨年、定期検査中に原子炉補助建屋内で放射性物質を含んだ水が漏れ出すトラブルが起きた。また、高浜4号機では、今年1月、核分裂反応を抑える制御棒が落ちて自動停止した。
経年劣化の問題は避けて通れない重大な問題である。
経産省が原発事故対策費を消費者負担にする新制度導入
7月26日、経産省は来年導入する「長期脱炭素電源オークション」の対象に、再稼働をねらう既存原発を加えることを検討するとした。「長期脱炭素電源オークション」は、新電力も対象である。現在は個別の電力会社が負担している事故対策費を、電気料金を通して全国の消費者から集めることになる。原発事故が起きて、東電との契約をやめ、再生可能エネルギー由来の新電力会社と契約した人も多い。ところがこの新電力会社と契約している人も、原発の事故対策費や再稼働費用を負担させられるのである。
あまりにも理不尽だ。原発事故から学び、原発は良くない、稼働すべきではないと、原発ではないエネルギーを求めて新会社と契約した人たちから集めたお金を、原発も含む発電会社に分配するというのである。
原子力資料情報室の松久保事務局長は「事故対策は電力会社の責任で投資すべきだ。消費者に負担させるべきではない」と苦言を呈している。
東電福島第一原発事故から学び、各電力会社は安全第一へと抜本的な体質改善に取り組むべきである。国はそれを指導する立場だが、事故を起こしても消費者に負担させる制度を導入しようとしている。これでは事故を起こさないように対策を取らなくてはという意識にならない。
東電は15メートル以上の津波が来る可能性を知りながら、経費がかかるからと対策を行わず、原発事故を引き起こした。そこからしっかり教訓を得なければならない。危険な原発ではなく、再生可能エネルギーへの転換を。
原発からの撤退以外に選択の余地はない。(沢)