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2024.06.19
日本新聞
311子ども甲状腺がん裁判 第10回口頭弁論 東電は責任認め被害者に補償を
4574号1面記事
311子ども甲状腺がん裁判
第10回口頭弁論
東電は責任認め被害者に補償を
「福島の子ども達のがんは潜在がんで治療の必要もないもの」と言い放つ東電。今も苦しみ続ける被害者をムチ打つ無責任な姿勢を問う
6月12日、「311子ども甲状腺がん裁判」の第10回口頭弁論が行われた。86席の傍聴席に対して191人がかけつけた。「まだ被ばくのことを言っているのか」などのバッシングにさらされながら闘い続けている青年達を支援したい、応援している人がいるんだよというエールだ。
裁判では、原告側の弁護士が、「進行がんでも潜在がんなのか。被告の東電は“治療の必要はない”と言うが、果たしてそうなのか。福島県立医大の鈴木眞一教授は『通常と同じ』と言うが、通常は治療している。摘出しないで経過観察するなど、そのような例は小児甲状腺がんにはない。また、高野医師は“若年層の甲状腺がんは頸部の大きな腫瘤や肺転移など進行した状態で発見されるが、予後は極めて良好。30年以上生存率99%”と述べているが、これは実際ではない」と指摘した。
原告の青年達も何度も再発して手術したり、苦しいアイソトープ治療を繰り返している。青年達の実際を無視し、“予後は良好”などと、医師の立場からよく言えるものだ。
そして被告の言うスクリーニング効果。問題ではないのに、調べたために小児甲状腺がんが多数みつかったという論だ。しかし鈴木教授は、自分が手術した患者で、必要のない手術は一例もないと言っている。では原発事故によって被ばくしたのが原因でしょうという質問には答えない。
それにしても、何度も何度もスクリーニング効果ではないと、原告側弁護団は指摘しているが、被告東電は認めない。原発事故と子ども達のがんとの因果関係を認めたくないからだ。余りにも誠意がない。
メディアは公正な報道
を、裁判所は正しい判
断を
報告会では原告2さんの訴えを聞いた。
――がんと診断を受けてから10年、過酷でつらい治療を受けたが、病状は今も進行している。自分はあとどのくらい健康で生きられるのかと考える。腫瘍マーカーの値はじりじりと上がっている。治療はアイソトープ治療しかないが、効果がない。治療にかけた時間はすべて無駄だったと感じる。常に体調が悪い。
中学の頃から、東京の企業に入って自分の得意分野で活躍したいと思っていた。受験準備が間に合わず、進学先を変えたが、再発のため、退学。病気を人に知られないように、小さくなって暮らしている。
また、夢に向かって通信教育を受けている。もうすぐ30歳、夢の実現は難しい。厳しい体調で不安だ。
最初の意見陳述で支援者の方から“ありがとう”と言ってもらって、この裁判への意識が変わった。この裁判の主役は私たち原告なんだ。これからも、自分がその場にいて、自分の目で見て、その瞬間を見届けていきたい。これからも原告達とともに最後まで一緒に闘いたい。そして、声をあげられずに一人苦しんでいる甲状腺ガンを患っている一人一人の力になりたい ――
堂々とした訴えだった。
次に各弁護士から裁判の中味について話された。
柳原弁護士の「学生時代、生活保護不正受給の裁判で、本人尋問の中味で“お金がなくてメガネを買えなかった。黒板の字が見えなくて、何も勉強できなかった”というのを聞いた。裁判はこういう声を届けなければならないと思った。原告2さんは意見陳述で生まれ変わった。毎日泣きながら文章を書いた。それを聞いて感動した裁判官は異動になった。これを新しい裁判官に伝えなければならない。原告2さんは理不尽に屈しない人になった。原告さんの生の声をこれからも大事にしたい」という訴えは会場にしみわたった。
井戸弁護団長は「次回から原告の要旨説明の道が開けた。12月、3月の期日で東電が反論する予定。裁判も大詰めになってきたが、メディアが報じない。そのために知らない人が多い。社会的世論を大きくしていくために、これからも協力してほしい」と呼びかけた。
被害者が小さくなって生きらされ、加害者の東電は次の再稼働をねらう、これは明らかに間違っている。
メディアは真実を報じるべきだし、裁判所には正しい判断を求めるものである。(沢)
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2024.06.12
日本新聞
4573号 難民申請中の強制送還認める改悪入管法施行
4573号1面記事
難民申請中の強制送還認める改悪入管法施行
ウィシュマさん虐待死事件当時より更にひどい悪法。難民申請3回目以降の人は強制送還可能に。難民を受け入れない日本の制度が問題
「改正入管法」が10日、施行された。
入管法を巡ってはさまざまな問題があった。入管法は、日本への入国や出国の管理、在留資格や不法滞在、難民の認定手続きなどに関して決められた法律である。
2019年の入管法改定は、日本の人手不足を補うために、外国人受け入れ政策を見直し・拡大した。そのために新しい在留資格「特定技能」が創設された。一定の専門性・技能がある外国人を即戦力として受け入れることを可能にする、と言われたが、実際は単純労働を含む幅広い業務が可能になった。また、技能実習から特定技能への移行が可能となった。技能実習生は最長5年しか日本に在留できなかったが、特定技能に移行することで、引き続き働くことが可能になった。
それもこれも日本の労働力不足を補うためである。外国人労働者がいなければ日本は回らない、外国人労働者に助けられている。それなら、外国人労働者が安心して働けるような制度にすべきである。
2021年にも「入管法改正案」が国会に提出されたが、批判の声が強く、取り下げとなった。
2021年3月6日、名古屋入管に収監中のスリランカ人女性ウィシュマさんが死亡した。体調不良を訴え続けていたのに、入管側は適切な処置もせず放置した。この事件によって、入管による収監者への扱いが問題視された。
その直後の法案提出で、収監者への取り扱いや難民認定制度の改正が取り上げられているかと思いきや、それと真逆であったために、取り下げとなったのである。
「改正入管法」の
何が問題なのか
10日に施行された「改正入管法」は、2021年に取り下げになった「改正案」がほとんどそのまま引き継がれている。
最大の問題点は、3回目の難民申請以降は「難民認定すべき相当の理由」を示さなければ送還するという点だ。「相当の理由」は紛争などの本国の情勢に変化があったなどが挙げられるというが、それ以前から身の危険を感じて国を逃れてきた人はどうなるのか。変化がなくとも送還によって命の危険にさらされる可能性があるのだ。
日本は難民条約に加入している。それなのに、難民受け入れは極端に少ない。2022年の難民認定率は、イギリス68.6%、カナダ59.2%、アメリカ45.7%に対して、日本はわずか2.0%202人にとどまっている。
本来、難民に認定されて当然の人が認められないため、何度も何度も申請せざるを得ない。それを、3回目の申請以降は強制送還する、これはとんでもないことである。
他にも問題は多い。
入管が認めた「監理人」(親族や支援者)の下で生活できるようにする。一見いいようだが、3カ月ごとに、入管施設への収容継続の必要性を判断する、という条件が付けられている。「監理人」にも責任がかかり、「監理人」の負担も大きい。
更に、送還に必要な旅券の申請を命じられて拒否したり、送還の飛行機内で暴れたりした場合の刑事罰を新設。送還が命に関わる場合、命がけで拒否するのは当然のことである。有無を言わせず罪人にして送還する、これが難民条約に加入した国のやることなのか。
小泉法相は「改正入管法」について、「保護すべき者を確実に保護し、ルールに違反した者は厳正に対処する。日本人と外国人が尊重し合うバランスのとれた共生社会の基盤をつくるという考え方によって成り立っている」と持ち上げている。
外国人を安価な労働力として酷使し、「いつでも強制送還できる」と脅す。どこがバランスのとれた共生社会なのか。
日本社会にとって、外国人労働者はなくてはならないパートナーである。共に安心して働ける法制度を作ることが、今求められているのである。 (沢)
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2024.06.05
日本新聞
4572号「農政の憲法」を改悪、農業壊滅への道
4572号1面記事
「農政の憲法」を改悪、農業壊滅への道
食料自給率38%の危機的状況をさらに悪化させる改悪。農家の権利も消費者の権利もないがしろ。輸入に頼る農業からの脱却こそ急務
5月29日、「改正食料・農業・農村基本法」が参院本会議で与党、日本維新の会の賛成で可決、成立した。
「食料・農業・農村基本法」は1999年に制定され、「農政の憲法」と呼ばれている。改定は25年ぶりに初めて行われた。改定の根拠とされたのが、ウクライナ戦争などによって、食料安全保障の確保の重要性が浮き彫りとなったことが上げられている。
主な改定内容は
・基本理念に「食料安全保障の確保」を追加
・輸出促進のため、国は農産物の競争力を強化する
・消費者は、環境負担が少ないものや持続的な生産に資する商品の選択に努める
・大規模農家だけでなく多様な農業者が農地を確保できるよう配慮
・障がい者などが農業活動できるように環境整備する
では一つ一つ見ていこう。
基本理念に「食料安全保障の確保」を追加したというが、最近、安全保障という言葉が飛び交う。「経済安全保障」「食料安全保障」これらが軍事の安全保障と結びついている懸念は大きい。実際、有事の食料安全保障のために、花を作っている農家にいもを作るように命令を出し、従わなければ罰金を科すとしている。有事だからと、急に作付けを変えることなどできない。
価格に費用を転嫁できるように、理解増進、費用の明確化を進めるというが、実際は経費より安く米や野菜を売らなければならない状況である。大手企業の農業参入でますます価格統制が行われている。
輸出促進のため、農産物の競争力を強化というのも、大手企業にしかできないことだ。食料自給率が38%と極端に低い状況こそ変えていかなくてはならない。輸出の話ではない。食料自給率を引き上げていくことが最優先である。
消費者の商品選択が大きな問題のように言うが、消費者に正しい情報を提供することが先である。アメリカの余剰農産物を輸入するために、パン食を推奨し、欧米食に切り替えていったのは消費者のせいではなく、政府による意図的な宣伝によるものである。
大規模農家だけではなく多様な農業者が農地を確保できるようにする、これは企業が農業に進出しやすくするためのものであり、農業の発展や農家保護とは無縁だ。
障がい者が農業活動できるよう環境整備。農福連携で、農家も助かり、障がい者も仕事に誇りを持って取り組めるようになるのはいいことである。一部の者がそれを悪用することがないことを望む。
食料自給率アップ、種の自給が農業のカギ
日本の農家の平均年齢は68歳である。今の農政ではさらに高齢化するのは明らかである。何十年も農業委員を務めていた方が、「息子に農業をやる、と言われて、とっさに、“それはやめて!”と言ってしまった」と話していた。そう言ってしまった自分が悲しいのである。
食料自給率38%の現状からどう引き上げていくのか、それを第一にして、80%までもっていかなくてはならない。
生産費用の高騰で農家は悲鳴を上げている。欧米並みの直接支払い制度の拡充が必要だ。
国がめざすのは農業の大規模化だが、そうではなく家族農業など小規模農業の保障こそが、農業の未来を切り拓く。その具体化のための施策を講じるべきだ。
食料の保障の重要なポイントは種である。日本は今、種の9割以上を外国の圃場に依存している。国内で安全な種を確保することが緊急課題だ。
米の需要が減っているからと、田んぼを畑にする方針が出されている。それでどうやって、食料の確保ができるのか。義務でもないミニマムアクセス米を輸入するのではなく、日本の農家の米作りを保障し、国の責任で買い取る。それを備蓄や、内外の援助に回すことで食料の確保ができる。
農水省は「みどりの食料システム戦略」で、農地面積の4分の1の100万ヘクタールを有機農業にするという目標を提示している。しかし、何の具体策もないために国際社会からも「できるわけがない」と笑われているのが実情だ。
地方の一次産業を大事にすれば、人も戻っていく。政策の根本的な転換が求められる。 (沢)
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2024.05.29
日本新聞
4571号 すべての冤罪を晴らす世論を高めよう
4571号1面記事
すべての冤罪を晴らす世論を高めよう
袴田裁判再審結審、判決は9月26日、無罪判決を。5月23日、日比谷野音で狭山集会。石川さんが元気なうちに再審無罪を!と切実な訴え
5月22日、袴田巌さんの裁判をやり直す再審公判が静岡地裁で結審した。拘禁症で裁判に出れない巌さんに代わって、姉のひで子さんが出廷した。ひで子さんは「どうぞ弟巌に、心の自由をお与え下さいますよう、お願い申し上げます」と訴えた。
1966年、静岡県清水市で味噌会社専務一家4人強盗殺人事件が起き、焼け跡から4人の他殺体が発見された。味噌会社の従業員の袴田さんが犯人にでっち上げられた。死刑囚として長期拘留された袴田さんは、恐怖のため拘禁症を患っている。
検察側は「『5点の衣類』は袴田さんの犯行時の着衣と認められる」として死刑を求刑した。弁護側は「捜査機関が証拠をねつ造した」として、無罪を訴えた。
袴田さんの無実は明らかである。「5点の衣類」は事件から1年2か月後に事件現場近くの味噌工場の味噌タンクから「発見」されたもの。ステテコは大きすぎ、ズボンは小さすぎて入らない。しかも1年2か月経っているというのに、血痕は赤いまま、上着より下着が血の色が濃いなど、不自然な点が多い。「5点の衣類」は捜査機関のねつ造だという、弁護側の訴えは妥当なものだ。
事件から58年、袴田さんは88歳、ひで子さんは91歳、一刻も早く冤罪を晴らし、一日でも長く、真に自由な日々を過ごしてほしい。
9月26日には無罪判決を!
袴田裁判の次は狭山
裁判の再審無罪を!
5月23日、日比谷野音で、「狭山事件の再審を求める市民集会 無実を叫び61年!東京高裁は事実調べ・再審開始を!」が開催された。石川さんの再審無罪を求める人たちが全国からかけつけた。
社民党の福島みずほ党首は「石川さんの無実は明らか。袴田裁判は9月26日に結論が出る。狭山裁判でも再審無罪をかち取ろう。冤罪被害者のための再審請求が認められることを求める超党派の議員連盟が260名で発足した。いたずらに時間を費やす検察官の抗告を廃止すべきだ」と訴えた。
石川一雄さんは「新しい弁護士さんたちは、活気ある、期待が持てる弁護士さんだ。元気な間に無罪をかち取ることを強く強く望む。仮出獄して30年も経って、まだ解決できない。皆さん、よろしくお願いします」と訴えた。石川さんの無念な思いが伝わってきた。
早智子さんは「今朝、両親の墓前に“集会に行ってくるよ”と言ってきた。昨日、袴田裁判再審が結審した。9月26日の無罪判決は明らかだ。次は狭山だ。検察は渋々、証拠調べを行ってきた。前進している。裁判所は一雄の声を聞いてほしい。様々に体調の衰えはあるが、気力は衰えていない。たくさんの方が狭山に来てくれている。生あるうちに再審開始、無罪を獲得したい」と力強く訴えた。
基調提案で部落解放同盟中央本部副委員長の片岡さんは、明確に次の3点を提示した。
1、昨年12月、裁判長が定年退職。退官前に鑑定人尋問を認めてほしいと52万の署名を裁判所に提出したが、かなわなかった。新しい裁判長は「どの点が争点か説明してほしい」と言ってきた。検察は反対したが。前向きだ。
2、裁判のこれからの闘い方だが、鑑定人尋問をやるかどうか判断してもらう。闘いの焦点は万年筆の鑑定実験を裁判所にやらせること。兄の六蔵さんは、3回目の捜査に刑事が来た時、「2回も調べたんだから、あるわけがない」と言った。万年筆が出てきたとき「誰か置きやがった」と刑事に言った。60年経って、万年筆がでっち上げだと100%証明できた。
3、再審法の改正が必要。袴田事件は2014年に静岡地裁が再審開始を決定した。ところが検察が抗告し、10年経って、ようやく再審、結審。石川さんは85歳、時間をかけていられない。昨年、日弁連が再審法改正を提案した。いよいよ決戦だ、がんばろう!
同じく冤罪で苦しめられた足利事件の菅家さんは「袴田さんの再審決定は自分のことのように嬉しかった。次は石川さんだ。私が無罪になってから15年、警察も検察も何も謝っていない。裁判所の前で謝らせたい。事件のことを何も知らない私を連れていって取調べ。やっていないと言っても、“犯人はお前しかいない”と追い詰める。石川さんの再審をかち取ろう」と怒りを込めて語った。
まだまだたくさんの冤罪事件がある。死刑執行の後に、冤罪が明らかになった人もいる。
再審が決定されてから更に10年、袴田さんの再審は引き延ばされた。その10年は実に貴重な10年であったのに。検察は不服なら、再審で論議すればいい。いたずらに時間稼ぎの抗告は許されない。早急に、検察の抗告廃止を求める。
すべての冤罪を晴らす再審法へと変えなければならない。 (沢)