日本新聞
農家への所得補償なしに解決はない
4618号1面記事
農家への所得補償なしに解決はない
「食料困難事態」に命令で食料増産させようとする政府。米農家も酪農家も赤字、農家が農業で生きられる政策を打ち出すことが最優先
4月11日、政府は「食料供給困難事態対策法」の運用を定めた基本方針を閣議決定した。これは米や肉類など19品目を「特定食料」と定め、供給量が2割以上減少するなどの際に、増産や作物転換を要請するというもの。
「食料供給困難事態対策法」は4月1日に施行され、閣議決定でそれを具体的に運用できるようにした。19品目は、米、肉類(牛肉・豚肉・鶏肉)、小麦、大豆、菜種・油ヤシの実、てん菜・サトウキビ、生乳、鶏卵、加工品は小麦粉、植物油脂、砂糖、飲用牛乳・乳製品、液卵・粉卵などである。供給不足になったら増産命令を出し、その計画を出さない農家や事業者には20万円以下の罰金を科す。休耕地を持つ農家に増産に協力してもらうというのだ。
全くひどい話だ。
つい最近まで政府は田んぼをやめて畑にすれば奨励金を出す、などと言って、田んぼ潰しを進めてきた。“米が余っているから”と。実際は、米農家は作れば作るほど赤字で、後継者も減る一方。ついに、スーパーから米が消えるという米不足状態となった。そうしたら今度は増産しろという。休耕地を田んぼにすぐに復活させられるとでも思っているのか。不可能である。増産計画など出せない。そんな農家には罰金20万円を科すというのか。
世界で真っ先に餓死するのが日本人という現実
“日本の農家は過保護”と宣伝されてきたが、実際は全く違う。
米の生産コストは1俵(60キロ)1万5000円かかるのに、米価は1万円を切る事態になった。作れば作るほど赤字だ。最近は米価が上がったと言うが、ようやく30年前に戻ったにすぎない。しかも値が上がったのは、農家から安く買い取った後であり、農家の収入は増えていない。赤字である。驚くのはアメリカからの輸入米は1俵3万円で買い取っているというのだ。しかも食用にはまず過ぎるから飼料米にしているというのだ。
酪農家は牛乳を1キロ搾ると平均30円赤字だという。飲料乳価が一昨年11月に10円上がり、昨年8月に10円上がったと言っても、まだ10円赤字である。おまけに昨年も一昨年も猛暑で乳量も減っている。
赤字の農家に対して国は何の補助もしない。一体どこが過保護なのか。
外国では最低限価格(農家が生きられる価格)で政府は穀物や乳製品を買い上げ、国内外の援助に回している。子ども食堂やフードバンクなど、国内の貧困層の援助や、国内外に人道援助し、農家が作ったものが生かされるように、農家にも収入が保障されるように、政府が対策を考えている。
今、米が足りなくなることが予測されているのに、閣議決定の内容は食料自給率を大幅に上げようというものではない。米の輸出を今の8倍に増やす計画だというのだ。空いた口がふさがらないとはこのことだ。輸出を増やして、有事には国内に向ける、そんな事態ではない。国内で米をしっかり生産していけるようにしなければならない。それには農家の所得補償は必須だ。
乳価を10円上げるには750億円、米1俵当たりの赤字を主食米700万トンに補てんするのに3500億円、全国の小中学校の給食無償化に約4800億円あれば実現できる。
世界で大きな災害や紛争の影響で流通が止まれば、真っ先に餓死するのは日本人だと言われている。十分根拠のある説である。
日本に住む人々の命も守れない、これが独立国と言えるのか。軍事費43兆円をやめ、国内の食料生産を支えることこそが、最優先の安全保障である。政治の根本転換が求められる。 (沢)